【第1章】 婚姻前に考えたいこと(小川惠)(特集:婚姻のトリセツ)
◆この記事は「法学セミナー」811号(2022年8月号)に掲載されているものです。◆
特集:婚姻のトリセツ
あなたのライフプランに婚姻はあるでしょうか。
いまや婚姻は人生に必須とはいえず、選択肢の1つに過ぎません。
とはいえ、何かを選ぶときには、ありうる選択肢について調べることは定石なはず。
選択肢の1つとして婚姻を考えるなら、まずはそのなかみについて、一緒に学んでみませんか。
今回の特集は、”何となく知っている”であろう婚姻制度について、とある大学生カップルが交際し、婚姻し、離婚する過程をたどりつつ、法的視点から婚姻を解説します。人生における婚姻に、思いをいたしてみましょう……。――編集部
1 はじめに
家族のかたちが多様化しているなどと言われ、婚姻が当たり前ではなくなりつつある現在でも、なお婚姻を希望する人は多数派である1)。しかし、多くの若者にとって、婚姻の方法や効果は実のところよく知らない事柄なのではないだろうか2)。そもそも「婚姻」という言葉に違和感を覚える人もいるかもしれない。一般には、夫婦になることを「結婚」と表現することが多いが、これは日常で使用される用語であり、法律では「婚姻」という(本稿は法律に関する事柄を扱うため、【Case】を除いては基本的に「婚姻」を用いる)。また、「入籍」という表現も耳にするだろう。「入籍」と聞くと、妻が夫の戸籍に入るというイメージがあるかもしれないが、実は戸籍の取扱いからすればそうしたイメージは正確でない。このように、とくに婚姻の未経験者にとっては、婚姻は“なんとなく知っている”制度なのではないだろうか。そこで今回の特集では、連関する【Case】を用いて、大学生のカップルが交際し(場合により破局し)、婚姻し、離婚する過程をたどりながら、婚姻をめぐる法律関係や戸籍の扱い、生じうるトラブルについて解説する。婚姻前から婚姻中、さらに離婚の危機にある状況をいま少しリアルに想像し、婚姻を考えるきっかけになれば幸いである3)。
脚注
1. | ↑ | 国立社会保障・人口問題研究所「2015年 社会保障・人口問題基本調査(結婚と出産に関する全国調査)現代日本の結婚と出産─第15回出生動向基本調査(独身者調査ならびに夫婦調査)報告書─」【PDF】(2015年)(最終確認日2022年6月5日)によれば、いずれは結婚しようと考える未婚者の割合は、18~34歳の男性では85.7%、女性では89.3%である。なお、第16回出生動向基本調査が2021年に実施されており、2015年からどのような変動があるか注目される。 |
2. | ↑ | 永田夏来「若者の結婚言説にみる結婚観の〈変質〉と親密性の変容」二宮周平=風間孝編著『家族の変容と法制度の再構築』(法律文化社、2022年)86頁以下では、個人へのインタビューの様子が記述されている。その中で、婚姻届の出し方すらわからないという旨の発言が紹介されている。 |
3. | ↑ | この特集においては、とくに断りのない限り、条文は民法の規定である。 |