元首相の「国葬」(西村裕一)

法律時評(法律時報)| 2022.09.29
世間を賑わす出来事、社会問題を毎月1本切り出して、法の視点から論じる時事評論。 それがこの「法律時評」です。
ぜひ法の世界のダイナミズムを感じてください。
月刊「法律時報」より、毎月掲載。

(毎月下旬更新予定)

◆この記事は「法律時報」94巻11号(2022年10月号)に掲載されているものです。◆

1 問題の所在

第26回参議院議員通常選挙を2日後に控えた2022年7月8日、奈良県で応援演説を行っていた安倍晋三元首相を、2発の銃弾が襲った。実に昭和11(1936)年の二・二六事件以来となる、首相経験者の殺害である。これを受けて、岸田文雄首相は、同月14日に開かれた記者会見において、今秋に「国葬儀」の形式で安倍氏の葬儀を行うことを明らかにする(首相官邸HP(2022年7月14日))。そして、同月22日の閣議において、「葬儀は国において行い、故安倍晋三国葬儀と称すること、令和4年9月27日に日本武道館において行うこと、葬儀のため必要な経費は国費で支弁することなど」が決定された(同上(2022年7月22日)【PDF】)。

報じられているとおり、戦後に元首相の「国葬儀」(以下、単に「国葬」とする)が営まれたのは昭和42(1967)年の吉田茂に対してのみであり、安倍氏の国葬に関する手続きや内容も概ねその例に倣ったものとなっている。それゆえ、今回の国葬について問題となっている論点のいくつかは、吉田の国葬が執り行われた際にすでに議論されていたものであった。そのような諸論点の中でも、とりわけ憲法上の問題となるのが、国葬の宗教的形式および国葬の法的根拠という2点である1)

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脚注   [ + ]

1. 参照、有倉遼吉「国葬」法セ141号(1967年)39頁以下。