統一教会の霊感商法等の被害はなぜ根絶できなかったのか(紀藤正樹)

法律時評(法律時報)| 2022.10.31
世間を賑わす出来事、社会問題を毎月1本切り出して、法の視点から論じる時事評論。 それがこの「法律時評」です。
ぜひ法の世界のダイナミズムを感じてください。
月刊「法律時報」より、毎月掲載。

(毎月下旬更新予定)

◆この記事は「法律時報」94巻12号(2022年11月号)に掲載されているものです。◆

1 安倍晋三元首相に対する銃撃事件

7月8日、参議院選挙での街頭演説中に、安倍晋三元首相が銃撃され殺害されるという世界を震撼させる事件が発生した。犯行動機には、世界基督教統一神霊協会(現「世界平和統一家庭連合」、以下「統一教会」という。)への恨みがあるということが警察により公表され、統一教会の被害者とも評価できる容疑者1)によって引き起こされた事件であることが判明した。そのため霊感商法や高額献金の問題、家族破壊の被害など、統一教会の実態が大きく報じられるとともに、政治への浸透問題や民主主義の在り方の問題など、社会事件の範囲を大きく超え、政治問題、国の形への問題にも発展し、日本社会に大きな波紋を呼んでいる。

2022年11月号 定価:税込 2,035円(本体価格 1,850円)

いわゆる「空白の30年」2)に、統一教会の被害をなぜ根絶できなかったのか、なぜ風化が生じたのか。

日本は1995年に地下鉄サリン事件を経験している。約30年の間に、カルト的宗教団体に関係する大事件が2回も起きた国は世界に例がない。地下鉄サリン事件後、米上院議会は、1995年10月には議会報告書を作成し、フランスも同年12月、国民議会報告書をまとめ、その後2001年には反セクト法を成立させた3)。ところが当事者の日本は、地下鉄サリン事件が起きた後も、事件がなぜ起きたのかの検証すら国会で総括せず、そのためカルト問題に対する抜本的な対策を講じず現在に至っている。そのことがオウム真理教と同じくカルト的宗教団体と評されてきた統一教会が放置され、霊感商法や家族被害も放置され行政の無策が続く結果を招いた面は否めない。

この空白の30年は、二世信者たちの人生の30年でもある。テレビ等でインタビューに答える二世信者たちは20代から40代。この間、統一教会問題が放置されたことは、二世信者の被害者たちにとっては悲劇的ですらある。

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脚注   [ + ]

1. 刑事責任能力の有無を調べるため、11月29日までの期限で鑑定留置が行われていることから、本稿では単に「容疑者」と表記する。
2. 30年前の1992年8月、女優の桜田淳子さんらが統一教会の主催する合同結婚式に参加し霊感商法等の問題が大きく報じられたが、その後メディア等で報じられずに現在に至っていることを指す言葉である。
3. 最新の動向は、島岡まな「仏『反セクト法』が示唆すること」Journalism2022年10月号参照。