霊感商法と消費者法(松本恒雄)
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月刊「法律時報」より、毎月掲載。
(毎月下旬更新予定)
◆この記事は「法律時報」95巻1号(2023年1月号)に掲載されているものです。◆
1 霊感商法
霊感商法という用語は、1970年代から問題とされてきた旧統一教会(世界平和統一家庭連合)による資金集め商法を意味する俗称として使用されてきたものであるが、2018年改正の消費者契約法において、法律上の用語となった。すなわち、「当該消費者に対し、霊感その他の合理的に実証することが困難な特別な能力による知見として、そのままでは当該消費者に重大な不利益を与える事態が生ずる旨を示してその不安をあおり、当該消費者契約を締結することにより確実にその重大な不利益を回避することができる旨を告げること」により消費者が困惑し、契約の申込みまたは承諾の意思表示をしたときは、消費者はその意思表示を取り消すことができる(同法4条3項6号、2022年6月改正で8号)。
消費者契約法の2018年改正の政府案には本号は存在していなかったが、加齢や心身の故障による判断力の低下の不当な利用(同項5号、2022年6月改正で7号)とともに国会審議の中で修正追加されたものであり、一種の議員立法である。
立法当時はそれほど注目されていなかったものの、2022年7月18日に発生した安倍晋三元首相の銃撃事件の容疑者が、その動機を旧統一教会の信者である母親が多額の資産を献金させられたことによる家庭破壊のうらみであると述べていることによって、霊感商法の問題が再び注目を集めることとなった。
消費者契約法は、様々なタイプの同種商法がカバーされるように規定しており、特に宗教団体が行う場合に限定していない。宗教の周辺には、占い、鑑定、スピリチュアル、自己啓発等、類似した行為が多数あるので、この種の問題を宗教法人・宗教団体の問題として議論するとデッドロックに陥る可能性が高い。どのような団体・個人が行おうと、不適正な行為・違法な行為は禁止されるべきであるし、それによって生じた被害は救済されるべきである。
この点で、2022年10月6日付けの厚生労働省子ども家庭局長通知「市町村及び児童相談所における虐待相談対応について」が、「児童虐待防止法第2条各号に該当する行為を保護者が行った場合には、宗教の信仰等保護者の意図にかかわらず児童虐待に該当しうるものであること」としていることが、参考になる。