『大学生のための経済学の実証分析』(著:千田亮吉・加藤久和・本田圭市郎・萩原里紗)

一冊散策| 2023.01.26
新刊を中心に,小社刊行の本を毎月いくつか紹介します.

はしがき

著者らは大学や大学院の学生を相手に、計量経済学や実証分析などを教える傍ら、ゼミ活動では、学生がデータ分析をもとにした政策論文を書く際のアドバイスをしてきました。学生たちもデータ分析の重要性をわかっており、また政策形成などでは実証的な証拠 (エビデンス) が必要であることを理解しています。しかしながら、学生たちは、どのように論文を書けばいいのか、どのような分析があり、それらをどう使っていけばいいのか、さらにはデータをどこから集めるのか、集めたデータを分析するためのソフトウェアにはどんなものがあるのか、など多岐にわたる疑問の壁にぶつかることになります。

論文の書き方や計量経済学や実証分析の手法、ソフトウェアの使い方などはそれぞれについて立派なテキストがあり、その中にはずっと読み継がれてきたようなものもあります。しかし大学などでの授業や就職活動など、多くの事柄をこなしていかなければならない学生にとっては、一つひとつのテキストに向き合うだけの時間がないということも事実です。もちろん、将来研究者やシンクタンクで働きたい学生は、腰を据えて学ぶことが必要ですが、実証分析に興味を持つ学生 (あるいは若い社会人) にとっては、1 冊で論文の書き方からソフトウェアの使い方までを網羅した本が強い味方になるのでは、と考えました。これが本書を執筆する動機になっています。

冒頭でゼミ活動について言及しましたが、著者ら 4 人のゼミの学生たちは、エビデンスに基づいた分析をもとに政策提言論文を作成する ISFJ (日本政策学生会議) に参加するとともに、著者たち自身も様々な役割で支援をしています。ISFJ は学生自らが運営する組織ですから、主に論文の作成や分析などについて学生を指導しています。その際に感じたことは、まさに先に述べたように学生に教えるべきことが山のようにある一方、それをコンパクトに解説したテキストがないということでした。

学生による政策提言論文作成の活動だけでなく、学部や大学院の学生たちにとっても、データサイエンスや実証分析を学ぶ意欲はあるものの、その取っ掛かりがないという話も日常でよく耳にします。文部科学省では 2021 年度から「数理・データサイエンス・ AI 教育プログラム認定制度」を開始し、多くの大学がこれに参加することも教育のトレンドになっています。しかしながら多くのデータサイエンスの教科書では、いわゆる “文系” の学生にとって敷居が高いようにも感じます。「二兎を追う者は一兎をも得ず」と言いますが、あえて述べれば、本書は文系の学生の多くにとってもデータサイエンスや、その分析手法の第一歩となるようなテキストを目指して執筆しています。経済学が中心の記述になっていますが、社会学、政治学、社会心理学などを勉強する学生の皆さんにとっても役に立つ 1 冊になっているのではないかと思います。

本書の使い方については、学生の皆さんにとっては自習書や輪読書として、また指導される先生方には講義やゼミでのテキストとしてお使いいただければと考えております。この 1 冊で実証分析のエッセンスがわかる、ということを念頭に置いて執筆しましたが、それは記述が簡素化されている場合があるということでもあります。参考文献にあるテキストなどで、さらに深く学ぶための入門書として活用していただければと願っております。

2022 年 12 月冬の駿河台にて

千田亮吉・加藤久和・本田圭市郎・萩原里紗

目次

  • 序章 いま、実証分析が求められている
  • 第1章 実証分析の論文はどう書けばいいか
  • 第2章 実証分析のカタログ(1)
  • 第3章 実証分析のカタログ(2)
  • 第4章 データの集め方
  • 第5章 データの利用方法
  • 第6章 ソフトウェアの使い方の入り口
  • 第7章 政策の効果検証のための手法(基礎編)
  • 第8章 政策の効果検証のための手法(発展編)

書誌情報など

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