メタバースにおける人格権と表現の自由(大島義則)(特集:メタバースがやってくる!)

特集から(法学セミナー)| 2023.01.12
毎月、月刊「法学セミナー」より、特集の一部をご紹介します。

(毎月中旬更新予定)

◆この記事は「法学セミナー」817号(2023年2月号)に掲載されているものです。◆

特集:メタバースがやってくる!

メタバースが本格的に到来する前に、考えておくべき法的課題を網羅的に示すことによって、その道しるべを提供する。

――編集部

1 メタバースと人格権

メタバースの定義や条件は、確立されていない1)。例えば、「コンピューターやコンピュータネットワークの中に構築された、現実世界とは異なる3次元の仮想空間やそのサービス」2)として広く三次元仮想空間性に焦点を当てた定義、「コミュニケーションおよび経済活動が行われるオンラインの三次元仮想空間」としてコミュニケーション性や経済活動性を付加する定義3)、①空間性、②自己同一性、③大規模同時接続性、④創造性、⑤経済性、⑥アクセス性、⑦没入性を「メタバース」の条件として挙げる見解などがある4)

法学セミナー2023年2月号 定価:税込 1,650円(本体価格 1,500円)

最後に挙げた見解、すなわち、仮想空間の中で、自己同一性を有するアバターを用いたユーザーが大規模同時接続し、コンテンツ創造と経済活動を行い、AR、VR等の多様なアクセス手段により現実空間と仮想空間の垣根がなくなり、没入感のある世界体験ができる世界、というのが今、我々がイメージする「メタバース」の世界観に近いのではなかろうか。例えば、2022年公開の細田守監督の映画『竜とそばかすの姫』で描かれたメタバース「U」は、こうしたメタバース観に基づいているといえる。

このように一般消費者がユーザーとしてメタバースに参入していく局面では、ユーザーによるコンテンツ創造により表現活動が促進される一方で、ユーザーに対する人格権侵害の問題が顕在化する。本稿は、多数のユーザーが同時参加する大規模なメタバースを念頭に置きながら、特にメタバース上の表現に対する人格権に基づく差止請求権の問題に焦点を当てて考察することを目的とする5)。なお、仮想空間におけるアバターを通じた活動に関する名誉権、肖像権、名誉感情、氏名権、パブリシティ権による法的保護の問題については、斉藤邦史「仮想空間におけるアバターのアイデンティティ」本号26頁を参照されたい。

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脚注   [ + ]

1. メタバースの多様な定義を検討したものとして、AMTメタバース法務研究会「メタバースと法(第1回)総論――メタバースと法」NBL1223号(2022年)16-17頁。
2. 「経済財政運営と改革の基本方針2022 新しい資本主義へ――課題解決を成長のエンジンに変え、持続可能な経済を実現」【PDF】(令和4年6月7日閣議決定)。
3. AMTメタバース法務研究会・前掲注1)17頁。
4. バーチャル美少女ねむ『メタバース進化論――仮想現実の荒野に芽吹く「解放」「創造」の新世界』(技術評論社、2022年)31-32頁。
5. インターネット上の投稿等の削除の判断基準を整理したものとして、商事法務編『インターネット上の誹謗中傷をめぐる法的問題に関する有識者検討会 取りまとめ――削除要請の取組に向けた問題整理と検討』(商事法務、2022年)30頁以下。