(第12回・終)科学論文をどう捉えるべきか:個々の研究結果は暫定的なもの、再現性の確認を必要とする
コロナと数字と科学:ニュースに右往左往しないためのリテラシ(麻生一枝)| 2023.03.17
新型コロナ感染症に関する報道をはじめ,私達は,日々膨大な「データ」や「グラフ」や「科学用語」に接しています.しかし,ともすると,深く考えないまま鵜呑みにしてしまう危険性が常につきまとっています.この連載では,「データ」や「グラフ」を解釈するときのキーとなる基本的な考え方について紹介してゆきます.
(毎月中旬更新予定)
$\def\t#1{\text{#1}}\def\dfrac#1#2{\displaystyle\frac{#1}{#2}}$
科学論文。この言葉に、あなたはどんなイメージをもっているだろうか。しばし時間を取って、自分が「科学論文」という言葉を、どのように捉えているかを考えてみてほしい。
さて、どうだろう。専門の教育と訓練を受け研究を続けてきた学者が、その結果を報告しているのだから、何かとてもむずかしいもの。新しい科学的事実、発見。こんなところだろうか。
おそらく「科学論文」という言葉ほど、一般の人々と研究者との間で、その解釈が異なる言葉も少ないだろう。一般の人々は、論文の報告内容を事実に近いもの、本当のもの、と捉える。一方、研究者の捉え方はまったく違う。研究者にとっては、新しい論文は、その内容の真偽をこれから検証すべき対象だ。
麻生一枝 サイエンスライター,成蹊大学非常勤講師.お茶の水女子大学理学部数学科卒業,オレゴン州立大学動物学科卒業,プエルトリコ大学海洋学科修士,ハワイ大学動物学Ph.D. 専門は動物行動生態学.「統計や実験デザインの理解は健全な科学研究に必須である」という信念のもと,これらの教育の普及に熱意を持って取り組む.著訳書に『科学でわかる男と女になるしくみ』 (SBクリエイティブ),『実データで学ぶ,使うための統計入門 ---データの取りかたと見かた』(共訳,日本評論社), 『生命科学の実験デザイン』(共訳,名古屋大学出版会),『科学者をまどわす魔法の数字,インパクト・ファクターの正体---誤用の悪影響と賢い使い方を考える』(日本評論社)など.