『はじめて学ぶ物理学—学問としての高校物理(上)(第2版)』(著:吉田弘幸)
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はじめに
本書は物理学の入門書です.はじめて物理学を本格的に学ぶ方に,物理学の魅力をお伝えすることが本書の目的です.具体的には,高校物理の内容を理論として精密に紹介することを通して,物理学の考え方,論理の進め方をお見せしていきます.
考え方をお見せする,と言ってもマニュアル本ではありません.記述の形態は,高校物理で採り上げられている内容に関する,物理学の理論の講義です.その講義を読み進めることにより,直接的には高校物理の内容を習得できますが,結果として物理学の基本的な考え方 — 論理展開の形式 — に慣れることができます.
物理学では,論理を稠密に繋ぐための言語として数学を活用します.高等学校で使われている教科書は,数学の学習進度を考慮して数学的な記述が敬遠されています.そのため,物理法則の結論を「公式」として暗記するような学習に終始しがちです.このテキストでは必要に応じて数学的な手法を躊躇なく使っていきます.それが本来の物理学の手法に他ならないからです.高校で物理を履修された方にとっても,たくさんの新しい発見を経験していただけると思っています.数学的な手法を用いると言っても,読者に要求する数学の知識は高等学校で学ぶ内容のみです.一部,高等学校の数学の範囲を超える部分もありますが,それは,このテキストの中で説明を示してあります.
読者としては,高校生,大学受験生 (理系の受験生には限りません) から,物理に興味のある大人の方も想定しています.高校の頃に物理を履修しなかった大人の方でも数学の内容を覚えていれば読み進めることが可能です.高校生の頃に物理に挫折した方でも大丈夫です.物理に関しては高校で学ぶ内容も前提にはしていません.
筆者は普段,都内の塾で高校生を相手に物理の授業を行っています.その際,(受講生の思惑とは必ずしも一致しませんが) 全員を物理学科に送り込むつもりで授業を展開しています.だからと言って,不必要に専門的な内容を先取りして教えるのではなく,高校物理を完璧に理解して,大学入試が終わった日から自分一人で専門書を読めるようになることを目標にしています.本書の記述内容は,そこでの授業内容と符合しています.したがって,これから相対性理論や量子力学などの物理学の専門的な理論を学び直したいと考えている大人の方が,ウォーミングアップとして読むのにも最適です.
前述の通り,内容は高校物理の講義なので,高校生や大学受験生が,参考書として読むのにも適しています.むしろ,教科書として読んでいただける内容になっています.演習問題は付けていませんが,理論の理解を深めるために,やや具体的な【例】をいくつか付けました.【例】の中で,新しい内容を説明しているものもあるので,飛ばさずに読んでください.ただ,波動の分野は別の分野 (「力学的波動」は「力学」,「光波」は「電磁気」) の派生的な分野であり,具体的な現象の解析が理論となっています.そのため,この 2 つの分野については【例】が少なくなっています.
高校物理の守備範囲とは,主に 17 世紀中盤から 20 世紀初頭にかけて発展した古典物理学です.具体的には,ニュートン力学から前期量子論までです.もう少し細かく分類すれば,力学 (第 I 部),熱学 (第 II 部),電磁気学 (第 IV 部) と,波動現象の扱い方 (第 III 部,第 V 部),および,現代物理学の入門 (第 VI 部) となります.波動現象を除けば,これが各理論が発展した歴史的な順序と一致します.
力学,熱学,電磁気学は,高校の範囲でも一応完結した理論体系となっています.波動現象の扱い方は,力学や電磁気学の応用分野となりますが,高校の範囲では個別具体的な現象の理解に重点が置かれています.現代物理学の入門は,実際には,数学的手法の制約もあり,入門の入門程度の内容に留まっています.
実は,電磁気学に関しては,高校物理の範囲では理論が完結していません.教科書の記述では,理論体系の最後の 4 分の 1 くらいの部分が欠けています.本書は,応急ではありますが欠けた部分も繕い,完結した形で電磁気学の理論をお見せしています.
前述の通り,守備範囲は高校物理の内容に限定していますが,本書は物理学の法則と理論の紹介を目的に書かれています.理論を精密に紹介するためには論理を飛ばさずに記述する必要があります.そのため,高校物理の本としては,やや日本語の説明が多いかも知れません.しかし,ある分野で用いられる言葉を使いこなすことが,その分野を理解することを意味します.注意深く読むことにより,物理学の基本的な考え方 (大袈裟な言い方をすれば「思想」と表現してもよいかも知れません) を身につけることができます.したがって,最後まで読み通していただければ,本書がみなさんの物理学の学習の強い手助けとなると信じています.ただし,そのためには,自分の頭で悩みながら読み進めることが必要です.必要に応じて計算用紙を用意して自分の手で計算も再現し,苦しみながら読み進めることを楽しんでください.
注
本文中で〈発展〉とある部分は議論の本題に関わる内容ですが (主に数学的に) 難しい記述を含む部分です.また,〈参考〉とある部分は議論の本題から離れる内容であり,発展的な記述を含む場合もあります.いずれも,物理を初学の方や大学入試を目標としている方は読み飛ばしても問題ありません.〈やや発展〉とある部分は,計算過程は読み飛ばしても構いませんが,結論は確認してください.
第 2 版にあたって
本書の初版を発行してから約 4 年になります.多くの読者の方にご支持いただき,順調に版を重ねることができました.そして,この度,改訂版として第 2 版を発行できることになりました.今回の改訂では,次の点を重視しました.
- 2022 年に実施された指導要領の改訂にあわせて用語と項目を調整しました.
- 本書だけでも受験対策として十分な学習ができるように例題を補充しました.
- 余裕のある読者にも楽しんでいただけるように発展的な項目を追加しました.
また,受験生や大人の方だけではなく高校 1 年生や中学 3 年生くらいの方にも読みやすいように,日本語の表記と表現を少し改めました.さらに多くの読者に本書が届くことを期待しています.
2023 年 5 月
吉田弘幸
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