(第10回)国際協力分野での精神保健プロジェクトの拡がり
紛争・災害と子どものこころのケア――世界の精神保健の現場から(田中英三郎)| 2023.07.04
2022年ロシアによるウクライナ侵攻は日本に住む私たちにも大きな衝撃を与えました。また、新型コロナウイルスのパンデミックや自然災害など、私たちの日常を一変させる出来事がいつやってくるかは予想もつきません。こういった出来事はすべての人々のこころに暗い影を落としますが、特に子どものこころへの影響は計り知れません。この連載では、世界と日本の現場から、子どもたちのこころの健康を保つためにどんなことがされているのか、レポートしていきます。
(毎月上旬更新予定)
2022年6月、私はJICA本部平和構築室より、トルコでの新たな心理社会支援プロジェクト立ち上げに関する相談を受けました。国際協力の中ではマイナーな分野であった精神保健が次第に主流化されつつあることを感じ、喜んで協力を申し出ました。
トルコは隣国のシリア内戦の影響で、世界最大の難民受け入れ国として360万人以上の難民を受け入れています1)。2023年現在、これら多くの難民は帰還の目途が立たず、滞在が長期化しています。これまでトルコ政府は、難民に対して一定の法的保護と権利を保障し、医療、教育、福祉サービスなど、さまざまな支援を行ってきました。しかし、近年トルコ国内経済の不安定化やCOVID-19のパンデミックによる社会不安などが相まって、ホストコミュニティの難民に対する見方は厳しくなっていると言われています。
こういった背景を踏まえて、JICAは「心理社会的支援の質の向上」と「難民の社会統合の促進」をテーマとした技術協力プロジェクト実現の可能性を調査していました。そこで、私は2022年8月にプロジェクトの概要を計画するための調査団の一員として、トルコに赴きました。
脚注
田中英三郎(たなか・えいざぶろう)
2001年愛媛大学医学部を卒業、精神科医師。ユニバーシティカレッジロンドン(UCL)等で社会疫学を研究、公衆衛生学修士、博士(医学)。国立国際医療研究センター、国境なき医師団、都立梅ヶ丘病院、兵庫県こころのケアセンター等を経て、2021年よりJICAヨルダン事務所・ヨルダン保健省精神保健政策アドバイザーを務めている。
2001年愛媛大学医学部を卒業、精神科医師。ユニバーシティカレッジロンドン(UCL)等で社会疫学を研究、公衆衛生学修士、博士(医学)。国立国際医療研究センター、国境なき医師団、都立梅ヶ丘病院、兵庫県こころのケアセンター等を経て、2021年よりJICAヨルダン事務所・ヨルダン保健省精神保健政策アドバイザーを務めている。