国会議事堂見学記(編集部)
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国会は主権者である国民を代表する選挙された議員による唯一の立法機関です。ですが、主権者である私たちは、普段なかなか、国会に関心を持つことができていないかもしれません。
現在の国会議事堂は、明治憲法下の帝国議会の時代から使用されていますが、この堅牢な建物で開かれている国会とはどのような機関なのでしょうか。国会ではなにが行われているのでしょうか。
Web日本評論編集部が現役の国会議員の話を聞き、国会議事堂内を見学してきたレポートを掲載します。
1 国会見学をするための準備
ある日、ろだんと兎先輩とパンダちゃんの3人は、国会議事堂の見学に行く計画を立てています。
ろだん:国会議事堂はどうやって見学できるんでしょう?
兎先輩:小学生のとき修学旅行で行ったことがあります。個人でも見学できるみたいですね。
パンダちゃん:衆議院・参議院のホームページで、詳しい見学方法を調べてみましょう。
ろだんと兎先輩とパンダちゃんは、②の方法で、参議院議員の高良鉄美さんを通じて、見学を申し込みました。
ろだん:自身のホームページ上で、国会見学の申込を受け付けている国会議員もたくさんいますね。
兎先輩:議員の方を通じて申し込むと、一般参観では入れない場所に入れる場合もあるみたいですよ。
パンダちゃん:参議院議員会館で、高良さんの秘書の方と待ち合わせます。見学当日は、永田町駅に集合にしましょう!
2 見学当日! 永田町駅で下車!
東京メトロの永田町駅で下車して、議員会館方面の出口1へ向かいます。永田町駅の改札を出ると、衆議院・参議院議員会館への直結の地下通路があります。警備の警察官がいて、通行証を見せると通ることができます。議員や秘書などの職員は、通行証を持っていて、この地下通路を利用するようです。私たちは通行証を持っていないので、地上から、参議院議員会館へ向かいます。出口1を出て横断歩道を渡ると、さっそく国会議事堂が見えてきました。
国会議事堂を横目に少し歩くと、待ち合わせ場所の参議院議員会館が見えてきました。
3 まずは、議員会館へ
議員バッチを付けた人、議員に面会にきたスーツ姿の集団など、ロビーにはたくさんの人が行き来しています。入口付近には警備員がいます。議員会館内は、各議員の部屋を除いて、基本的に撮影禁止でした。
議員会館へ入るには、手荷物検査を受けなくてはいけません。荷物をトレーに乗せて、金属探知機の下をくぐります。空港の手荷物検査を思い出しました。議員に面会を申し込むには、受付で、面会申込書を書きます。
そうこうしているうちに、高良議員の秘書の神田さんがいらっしゃいました。
3人:本日はどうぞよろしくお願いいたします。
神田さん:よろしくお願いいたします。こちらが通行証になります。議員会館と国会議事堂にいるあいだ、見えるように身につけていてください。
警備員に通行証を見せて、議員会館のなかへ入っていきます。議員会館は新しい建物で、会議室の利用状況を示した大きなモニターや、カフェやコンビニ等の売店もあり、委員会の開始時刻を知らせるアナウンスが流れていたりしました。
見学の前に、高良さんにお話をうかがえることになったので、エレベーターに乗って、高良さんのお部屋へ向かいます。エレベーターには、議員全員分の名前と部屋番号が書かれたプレートがありました。
4 国会議員に話を聞いてみよう!
高良さんのお部屋に到着しました。高良さんは、沖縄出身で、憲法学者の顔もお持ちです。かりゆし姿に帽子をかぶって、出迎えてくださいました。
今回は参議院の見学をするので、参議院の成り立ちや、議会内でのルールについていくつかうかがってみました。
(1) 参議院ってどんなところ?
日本の議会は参議院と衆議院の二院制、衆議院で可決された予算案や法案を再度審議する参議院は「良識の府」と呼ばれています。
高良さん:参議院の役割は、衆議院や内閣をチェックすることです。参議院は衆議院に比べて任期が長く、解散がないため、一時の世論や内閣の動向を気にせず、腰を据えて法律案などを議論することができます。そのため、「良識の府」と呼ばれています。
(2) かつて貴族院だった名残
参議院は、帝国議会の貴族院に代わって、1947年に創設されました。参議院には、貴族院の名残を感じられる特徴がいくつかあります。そのひとつが、開会式です。
高良さん:国会の開会式が行われるのは、衆議院ではなく参議院なんです。開会式には天皇が来ます。天皇や皇族用の座席は、かつて貴族院であった参議院にしかありません。そのため、開会式の日には、両院の議員全員が、参議院の議場に集まります。国会中継やニュースを見ていて、衆議院と参議院を見分けたいときは、議長席の後ろの天皇の席の有無を確認するといいですよ。
参議院規則、参議院傍聴規則にも、貴族院時代の名残が感じられます。
高良さん:参議院規則には、「帽子、外とう、かさ、つえ、かばん、えり巻き、包物等を着用又は携帯しないこと」という規定があります。参議院傍聴規則にも同様の文言があります。明治時代に貴族院がイギリスの議会制度を参考にした名残で、このような文言になっているのです。
高良さんが帽子をかぶっていることにも、特別な理由があるそうです(高良さんの著書『僕が帽子をかぶった理由――みんなの日本国憲法』 (クリエイティブ21、2009年)より)。
高良さん:私は議員になる前から帽子をかぶっていたので、服装規定に対する抵抗として、こうして今もかぶっています。しかし、帽子をかぶったままでは、委員会室や本議会には入れません。議員になって最初の頃は、帽子をかぶる・かぶらないと揉めたりもしたのですが、衛視の方がどうしても規則だからと言うので、委員会室や本議会の前では帽子を取って手提げ袋に入れています。
(3) さまざまな採決方法
参議院本会議の採決方法には、起立採決、記名投票、異議の宣告、押しボタン式投票の4種類があります。
高良さん:まず、本会議場の座席には、議員の名前が書かれたプレートがあります。このプレートを立てると出席としてカウントされます。座席にあるケースのなかには、議員の名前が書かれた白色(賛成)と緑色(反対)の木の札がそれぞれ5枚ずつ入っています。記名投票の場合は、この木の札を持って、壇上に上がり投票します。
押しボタンは、衆議院にはなく、参議院特有のものです。第142回国会(1998年1月12日招集)から設置されました。それまでは原則として起立採決による運用が行われていましたが、以降は押しボタン式投票がこれに変わりました。押しボタンの採用には、採決時の牛歩戦術を避けるためといった意味もあったようです。しかし、コロナ禍で、起立採決に逆戻りしました。参議院は座席の数より議員数の方が少なく、議員の人数分しか押しボタンはついていません。コロナ禍で間隔を開けて座らなければいけなくなり、押しボタンがない席にも議員が座ることになったたためです。
通常の決議は起立採決、とくに重要な議案や、議員からの要求があった場合は、記名投票を行います。
高良さん:参議院規則第138条には、出席議員の5分の1以上の要求があるときは、議長は記名投票で表決を採らなければいけないという規定があります。通常は野党が記名投票を要求しますが、党内で造反がでた場合には、各党員が賛成・反対どちらに投票するのか見るために、与党からも記名投票が要求されることもあります。
決議にあたっては、議員が投票を棄権することもあります。
高良さん:棄権は、採決に対して「問題あり」と表明する抵抗手段です。ボタン式投票のときは、ボタンを押さなければ棄権となり、棄権をした人数がモニターに表示されていました。しかし、起立採決になって、棄権をする場合は、議場から退席しなければならなくなりました。私は、審議が不十分、かつ、審議の過程が不適切であると感じ、ある起立採決を棄権したことがあります。それは賛成多数の決議だったので、退席し、議場を出て行くとき、針のむしろのように感じました。
「良識の府」としての参議院の決議が、これでよいのかと感じることは多くあります。裁判所は、立法府がつくった法律は憲法に違反していない、いわゆる、合憲性を推定しています。立法の過程でその法律が憲法に違反しないかどうか、しっかりチェックしなければ、取り返しのつかないことになってしまいます。立法府としての機能を保つために、国会では、適切な手続を踏み、充分な審議をすることが、重要なことだと思います。
(4) 「ガチャンコ」と呼ばれる強行採決
強行採決は、与野党による採決の合意が得られず、少数派の議員が審議の継続を求めている状況で、多数派の議員が審議を打ち切り、委員長や議長が採決を行うことです。
高良さん:強行採決は、議会用語では、「ガチャンコ」と呼ばれたりします。長い時間かけて誰がみても審議を尽くした状態であればよいのですが、委員会や本会議での法案審議の過程で、新たな情報や虚偽の情報が発覚し、立法事実が覆されるような場合、委員長や議長は、少数派の議員の提案に耳を傾ける必要があると思います。
最近の国会では、審議時間を短くし、強行採決に踏み切ることが多く、多数決による運用が行われています。強行採決があまりに多いと、議会制民主主義が適切に機能しておらず、議会の品位を傷つけているように感じます。
(5) 参議院の議員構成
参議院のホームページで、現在(取材時は第204回国会)の参議院の会派別議席数を見ると、与党の議席数が過半数を占めています(議員数242人のうち、自民党・公明党議員は139人)。
高良さん:現在の国会の議員構成は、議会制民主主義が正常に機能するようなものではありません。与党議員が過半数を超えていること自体に問題があるわけではありませんが、審議によって採決の結果が覆される可能性が低いため、緊張感に欠けています。
特に、委員会の場では、緊張感のなさを感じることがあります。委員会は、本会議の前に、常任委員によって法案の専門的かつ詳細な審査を行う、予備的な審査機関と言われています。議員の多くは自身の所属する委員会が扱う法案は詳細に見ますが、それ以外の法案は細かく検討することはできないため、実際上は、委員会での決議が大きな意味を持ちます。
参議院には、内閣、総務、法務、外交防衛、財政金融、文教科学、厚生労働、農林水産、経済産業、国土交通、環境、国家基本政策、予算、決算、行政監視、議院運営及び懲罰の17の委員会があり、議員は少なくとも1つの常任委員となることになっていて、各委員会は20~30名の議員で構成されています。
私が所属している委員会では、与党の議員が、常任委員の3分の2近くを占めています。委員会は、週1~2回ほど開かれ、法案の提案や、提出された法案に対する質疑応答を行います。会派ごとに発言時間が与えられるのですが、少数政党の議員は、各委員会に1人や2人しかいないため、毎回のように発言をすることになります。一方、多数政党の議員は、質疑応答や発言の順番が回ってきません。そのため、委員会を離席したり、決議のときに挙手するだけの採決要員の議員も多くいます。活発な議論がなされておらず、議会のバランスが崩れているのを感じます。
(6) 質疑時間の割り当て
質疑時間について、参議院では、答弁時間を含めない形で各会派に質疑時間を割り当てる「片道方式」が採用されています。一方、衆議院では、答弁者の答弁中も質問者の持ち時間として計算される「往復方式」による運用がなされていて、衆議院と参議院で計算方法が大きく異なります。
高良さん:衆議院と参議院では、各会派への質疑時間の割り当ての計算方法も異なります。参議院では、会派の人数に比例して、質疑時間を割り当てるといったことはしていません。少数会派であっても、多数会派と同様の質疑時間が与えられます。通常、与党が法案を提出することが多いので、野党第一政党がいちばん長い時間を割り当てられます。つぎに与党第一政党の発言時間が多く、そのつぎに他会派が均等に……といった配分です。私自身、議員数が2人の少数会派ですが、予算委員会では、平均して20~25分の時間を与えられます。
一方、衆議院では、会派の人数比によって質疑の時間が決まるようです。そのため、会派無所属の議員の質疑時間は、質疑応答あわせて数分と、非常に短いものであったりします。このような現状を聞くと、憲法で想定されている議会制民主主義が正常に機能しているのかという疑問を抱かざるを得ません。願わくば、与党のなかからも、議会の現状に対する問題提起の声が挙がることを期待します。
高良先生から、貴重なお話を聞くことができました。本特集では、高良さんにご執筆をいただいています(「現在の国会における議会制民主主義の実情(高良鉄美)」)。
ろだん:議員構成と質疑時間の割当は、衆議院と参議院でかなり差があるのに驚きました。衆議院の少数党派の議員に与えられる質疑時間は、あまりに短いと思います。往復方式なので質問に答える与党議員が時間を消費してしまったら、ほとんど質疑にならないのではないでしょうか。
パンダちゃん:ボタン式投票や記名投票では議場にとどまったまま棄権ができるのに、起立投票では棄権する議員が退席し議場を出て行かなければならないことには、すこし違和感をおぼえました。議場にいるか、議場にいないかでは、同じ棄権でも意味合いが違ってくるような気がします。
兎先輩:参議院がもともと貴族院であったこと、そして、貴族院時代のルールがいまも随所に残っていることがよくわかりました。国会議事堂の見学でも、貴族院の名残を探してみようと思います。
高良さん:国会議事堂内は、見学ツアーを担当している衛視の方が案内してくれます。議員会館から議事堂へは地下通路でつながっています。先ほどお渡しした通行証を見せれば通れるので、ぜひそこから議場へ行ってみてください。
3人:高良さん、ありがとうございました!
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