『東京・練馬発「対話的研究会」の試み』(編著:暉峻淑子)
「対話的研究会」の試み
「戦争の反対語は平和ではなく対話です」。
対話的研究会の世話人の一人である暉峻淑子さんの著書『対話する社会へ』の帯にはこう書かれています。
対話こそが、人間社会を平和で豊かなものにすることができるという本質を端的に表した言葉です。
さてその「対話」をキーワードに東京都練馬の地で、規模は決して大きくはないのですが、さまざまな希望を抱いた方々が集い、歩み続けているコミュニティがあります。それが「対話的研究会」です。
本書は「対話的研究会」の方々によって編まれました。
「対話的研究会」はさまざまな職業、年齢の方々が性別を問わず集い、そしてそれぞれの方の意思を大切にしながら、生活、社会、政治などにかかわるテーマを持ち寄り、自由に語り合うことを基本として、2010年から今日まで毎月1回以上、のべ142回の会合を重ねてきました(2023年11月2日現在)。
本書の中で暉峻さんは「対話こそが、本源的な言葉なのです」と語りかけます。
「対話的研究会」の営みは、コミュニティを作り上げていく人間的で豊かな感性の大切さを教えてくれるはずです。
また本書にちりばめられた「対話的研究会」の方々の言葉から「民主主義社会の実現」のためのヒントを得ていただけるかもしれません。
本書を手にした方に「対話」の無限の可能性を感じ取っていただき、皆さんの手による新しい「対話的研究会」の試みが生まれるきっかけになれば、幸いです。
そのことを願って、本書をお届けいたします。
第1章 駅の数ほど、バス停の数ほど、対話の場を(暉峻淑子)
対話的研究会を始めて
毎月、毎月、対話的研究会の集まりを続けてもう15年?
ここまで長く続いていることが不思議です。けれどもその一方では、それが当たり前かな、という気もしています。
社会的な問題について語り合う場所が欲しい。趣味の会や講演会、健康増進の講習会なら、数々あるけど、政治・経済や社会について、せめて新聞の記事になっている程度の問題については、自分なりに納得したい。身近にいる人と「こういう記事があったけど、どういう意味なのかな?」と他の人の意見も聞いたり、自分の考えを話したり……。
- 子どもの教育は今でも盛りだくさんすぎて消化不良だけど、これからもどこまで盛りだくさんになるのかしら? 子どもの遊ぶ時間はなくてもいいの? みんな塾に行かなければいけないの?
- 神宮外苑の緑をつぶして千本の木を伐採し、高さ200メートルのビルやホテルができることがどうしていいの?
- 外環や大深度地下の道路は私たちの生活に本当に必要?ただ、NEXCO(日本高速道路株式会社)やゼネコンに仕事を与えているだけじゃない?
- これから物価は? 年金のゆくえは? 老人ホームはいくらかかる? 退職後の貯金はいくら必要? 非正規労働の人は貯められないよね。旧統一教会問題は結局どうなったの?
- これから日本は戦争する国になる?
など、知りたいことは山ほどあるのに、でも、普通の集まりでそんなことを口にすると浮いてしまい、特異な目で見られる。なぜ社会問題を話題にしてはいけないのかわからない。初歩的な質問も遠慮なくできて、話し合いができる場所を、身近な地域で一緒に持てたら――本当にそうね。ということで、自然にできたのが、対話的研究会でした。
日本人は、「民主主義国」の中では「異常」と言われるほど政治・社会問題音痴になる教育を受けています。社会のことは知らなくていい。それは一握りの人。エリートが決めること。
人生にはいろいろなことが起きます。でもそれに対処するのは、自己責任で、というのが日本という国です。子どもが学校で成績が悪いのは、子どもと親の責任。一生を無事に過ごすには数千万円の貯金をしなさい。病気やけがをしても、保険料のほかに、政府が3割負担、2割負担と閣議や国会で決めてしまったら、一夜でそうなる。政府が政権を握り続けるためにバラマキをしてたその財政赤字を埋めるのに、どこまで消費税が上がる?
消費税が嫌なら代わりに国債が超増発され、インフレのお返しが来る。軍事費をいきなり43兆円と決められたら社会保障費や学術研究費が削られるのは当たり前の事実になる。納税者の私たちは、それをどうすることもできないのか。戦争しないためにこそ、お金を使ってほしいのに――。
社会音痴の国民もそれではいけないと気がついて、社会のことをもっと知らなくては、と思うようになりました。私たちは、権力者に自分の人生を操られたまま、ミサイルが飛び交う中で死んでいくことになるかもしれない。私たちが本当に生きたい人生とはどんな人生だったのか。人間社会の正義とは? 人権とは? 福祉とは? 子どもたちのためにどんな社会を残したいか?……、インフレが、ひたひたと目の前に押し寄せてくる現実を財布の中身と見比べないわけにはいかない。それはイデオロギーの問題ではなく目の前に存在しているものを見る勇気があるかないかの問題です。対話的研究会では、見えるものは見て、その意味を考えようとしています。ただ目先の忙しさに気を取られて人生を終えるのは残念です。
今はさまざまな生産物やサービスがあふれていて、これ以上、消費者は何がほしいのか、どんな商売をしたらいいのかわからないと言われています。でも、何歳になっても「社会問題を勉強する会」とか、「対話する会」という需要に対しては、供給が足りません。それに対応して、できた会だから続いているのは当たり前かも、と思います。
目次
「対話的研究会」の試み
- 第1章
- 駅の数ほど、バス停の数ほど、対話の場を……暉峻淑子
- 第2章
- 座談会「対話的研究会」の魅力と可能性はどこに?……暉峻淑子、山川美代子、大六野寿子、小沼稜子、山田 高
- 第3章 私の考える対話
- 対話の場を求めて――日本語教師の仕事を選んだきっかけとその後……伊古田絵里
- 知的障害のある人との対話で見えたこと……黒川真友
- 人間らしくあるために――ちょっとしたバカくらいがちょうどいい……川島隆弘
- 子どもの教育問題と対話……君垣圭子
- 大切なのは、性別よりも生活者としての働き方――対話的研究会で得た気づき……野沢昭夫
- 私の「対話的研究会のすすめ……山田 高
- 「発表者」になって……小沼稜子
- 認知症予防は、対話の実践から!……沖山一雄
- 対話的新聞記者……石原真樹
- 「わたしの川」から「みんなの川」へ……菅沢 博
- 看護や介護からの対話……小山きみ
- パブリック・コメントのまやかし……大六野寿子
- 対話する社会が、新しい政治を進める――資本主義の変化にみる新しい未来……富田健嗣
- 対話について思うこと……片岡洋子
- 「嘘」の呪縛――対話の可能性……金澤むつみ
- 対話は、民主主義を支えて育む土壌……滝田清暉
- 住民と図書館……田倉京子
- 今一度 響き合うために……林 敦子
- 立憲民主党との合流論議で考えたこと……狩野忠志
- たいわ・たいへん・たからもの――弟との「対話不成立」から見えてきたこと……山川美代子
- おじぃ、おばぁと沖縄の少年・少女たち――対話が生み出す認識力・表現力……吉原 功
研究会で発表されたテーマ一覧
書誌情報など
- 『東京・練馬発「対話的研究会」の試み』
- 暉峻 淑子 編著
- 紙の書籍
- 定価:税込 1,870円(本体価格 1,700円)
- 発刊年月:2023年12月
- ISBN:978-4-535-52770-6
- 判型:四六判
- ページ数:188ページ
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