知的財産をめぐる法的問題とその調べ方(宮脇正晴)(特集:知的財産法のホットイシュー)
◆この記事は「法学セミナー」837号(2024年10月号)に掲載されているものです。◆
1 はじめに
(1) 本特集のねらい
知的財産法になんとなく興味を持っている人は多いのではないか。たまに報道で見る、パクったパクってないとか似ている似ていないといったことが問題になる紛争を面白いと思ったり、自分や友人が何らかの創作活動をしていて、他人の権利を侵害していないか気になったり、逆に他人が自分の権利を侵害していると腹を立てたりなど、興味を持つきっかけは色々あるだろう。本特集はそんな人のために、最近話題になっている事柄を題材に、知的財産法(知的財産権)をめぐる様々な問題について紹介・解説することで、同法を学ぶ面白さを伝えようというものである。本稿は、そのための準備として、様々な知的財産権やその調べ方等について広く薄く紹介し、なんとなく全体像をつかんでもらうことを目的としている。
(2) 知的財産と知的財産権の種類
(a) 概要
「知的財産」というのは、財産的な価値を持っている情報を指すことが多い(「知的財産」を正確に定義するのは難しい)。物(有体物)とは異なり、情報は模倣(コピー)される。知的財産権とは、模倣のような知的財産の一定の利用行為を禁止することのできる権利や利益のことである。代表的な知的財産とそれに対応する知的財産権としては、次の表に掲げるものがある。なお、不正競争防止法(以下、「不競法」という。)は、特許権などのように、○○権といった権利を付与する法ではないが、同法2条1項の定義する「不正競争」の多くは知的財産の利用行為であり、その不正競争によって営業上の利益を侵害された者は、侵害者に対し後述の差止請求を行うことができる(不競法3条)。本稿にいう「知的財産権」は、このような不競法上保護される営業上の利益をも指すものとする。
大雑把に説明すると、「発明」は技術的なアイデア、「意匠」は物品や建築物等のデザイン、「商標」と「商品等表示」は営業上使用されるマーク、「商品形態」はその名の通り商品の形態、「営業秘密」とは隠されて管理されている技術上・営業上の情報、「著作物」とは創作的な表現である。
(b) 具体例で考えてみよう
例えば、次のような報道がなされたとしよう。
この訴訟は、おそらく知的財産権の侵害訴訟なのだと思われる。知的財産権の特徴として、侵害行為の差止請求(侵害行為の停止・予防やそれに必要な措置の請求)が明文で規定されている(特許法100条など)ということが挙げられる。つまり、A社は、B社による特定のチョコレート菓子の販売がA社の有する知的財産権の侵害になると主張していることになるが、その知的財産権は具体的にはどのようなものだろうか。実は、上記の情報だけだと、この訴訟で問題になっている知的財産権が何なのかがわからない。どのくらいわからないかというと、上で挙げた知的財産権のうち、この訴訟では無関係と断言できるものが1つもない。