(第12回)自分の感情を打腱器にするということ
プロ精神科医あるあるノート(兼本浩祐)| 2025.01.14
外来のバックヤード、あるいは飲み会などフォーマルでない場で、臨床のできる精神科医と話していると、ある共通した認識を備えていると感じることがあります。こうした「プロの精神科医」ならではの「あるある」、言い換えれば教科書には載らないような暗黙知(あるいは逆に認識フレームの罠という場合もあるかもしれません)を臨床風景からあぶり出し、スケッチしていくつもりです。
(毎月中旬更新予定)
打腱器というのは、脳神経内科の先生が腱反射をみるときに使う道具です。道具はなんでもそうであるように使い勝手があります。たとえば、膝での膝蓋腱反射は手慣れていない人があまりよくない道具で試みても比較的簡単に出せるのですが、アキレス腱反射となると、使い慣れていない人がヘッドの軽い安い打腱器で試みてもなかなか出せないことがあります。反応が出なくとも、それは道具や打ち方のせいであって、アキレス腱の反射が必ずしも弱まっているわけではないのです。脳神経内科に入局すると、当然こういったことは初歩の初歩として教えてもらうことになるわけですが、しかし、実際に職業として腱反射を調べる必要のない人にはまったく不要の技術であり、道具です。脳神経内科にとっての打腱器、循環器内科にとっての聴診器、耳鼻咽喉科にとっての額帯鏡(今はまず使われませんが)など、道具がその科を象徴するアイコンになるほど、道具とその科特有の診断技術は深く結びついています。
兼本浩祐(かねもと・こうすけ)
中部PNESリサーチセンター所長。愛知医科大学精神神経科前教授。京都大学医学部卒業。専門は精神病理学、臨床てんかん学。『てんかん学ハンドブック』第4版、『精神科医はそのときどう考えるか』(共に医学書院)、『普通という異常』(講談社現代新書)など著書多数。
中部PNESリサーチセンター所長。愛知医科大学精神神経科前教授。京都大学医学部卒業。専門は精神病理学、臨床てんかん学。『てんかん学ハンドブック』第4版、『精神科医はそのときどう考えるか』(共に医学書院)、『普通という異常』(講談社現代新書)など著書多数。