序文(特別企画:生きづらさと犯罪 — 新たな支援に向けて)(編:田島光浩)
特別企画から(こころの科学)| 2024.12.17
心理臨床、精神医療、教育、福祉等の領域で対人援助にかかわる人、「こころ」に関心のある一般の人を読者対象とする学術教養誌「こころの科学」。毎号の特別企画では、科学的知見の単なる解説ではなく、臨床実践に基づいた具体的な記述を旨としています。そうした特別企画の一部をご紹介します。
(毎月中旬更新予定)
◆本記事は「こころの科学」239号(2025年1月号)の、田島光浩編「特別企画:生きづらさと犯罪 — 新たな支援に向けて」に掲載されている序文です。◆
日本における犯罪件数は、この20年ほど減少傾向にあるものの、受刑者に占める高齢者や精神・知的障害者の比率は増加しており、また無職であったり帰住先がなかったりする人も多い。こうした人々の生活歴に目を向けると、知的障害や認知症など認知や判断の側面に何らかの制約があることからくる困難、社会的孤立や生活困窮など、さまざまな「生きづらさ」を抱えていることが見えてくる。また、2023年の『犯罪白書』で指摘されたように、虐待などの逆境体験のある子どもは少年院在院者の九割近くに達し、学習面での遅れや学校を辞めたくなるほど悩んだ経験など学校生活への不適応傾向も多くみられる。こうした生きづらさを抱えた人々が、誰にも頼ることができず、孤立の中で犯罪に手を染めてしまうことがあるのではないか。また、出所後の再犯を防ぐうえでも福祉的支援は大切な要素の一つとなるはずだが、社会において十分な配慮を受けることができないまま罪を犯してしまった人が刑務所に入所した後、個々の背景や能力に合わせた処遇が十分に行われていない現状がある。