家庭裁判所の歩みとこれからの役割(西岡清一郎)/相続と民法と家庭裁判所(櫛橋明香)(特集:家庭裁判所にできること)
◆この記事は「法学セミナー」840号(2025年1月号)に掲載されているものです。◆
特集:家庭裁判所にできること
家庭裁判所の中では、誰がなにをしているの? 「家庭」の在り方がゆらぐいま、家庭裁判所が目指すべき未来について考えよう。
—編集部
家庭裁判所の歩みとこれからの役割(西岡清一郎)
1 家庭裁判所とはどのような裁判所か
家庭裁判所は、昭和24年(1949年)1月、家事審判所と少年審判所が統合されることにより発足した。家庭裁判所調査官制度や家事調停制度が設けられ、離婚や相続などの家庭内の紛争及び非行のある少年の事件を専門的に取扱い、その背後にある原因を探り、どのようにすれば、家庭や親族の間で起きたいろいろな問題が根本的に解決され、非行に及んだ少年が再び非行に及ぶことがないようにしていけるかということを考え、それぞれの事案に応じた適切な措置を講じ、将来を展望した解決を図るという理念に基づいた裁判所である1)
家庭裁判所の機能としては、裁判所として本来有する司法的機能に加え、家庭裁判所調査官制度に代表される福祉的・後見的機能(以下、「福祉的機能」という)を有することが際だった特色である。
2 利用者のための裁判所
家庭裁判所が創設された当初のポスターは、女優の初代水谷八重子さんがモデルになって、少年と一緒に家庭裁判所発足のことを知らせるビラを見ながら、「まあ、これで安心、あなたも私も」と述べているというものである2)。このポスターにあるように、家庭裁判所は、家庭裁判所の「利用者」である女性と少年を大切にする、そして利用者のために困っていることを解決して安心してもらう、という考えのもと発足したと言える。もっとも、これはあくまでも当時の現行憲法の定着を図るという社会情勢を踏まえたものであって、女性と少年に限らず男性もまた家庭裁判所の大切な利用者であることは言うまでもない。
私は、この困っていることを解決して安心してもらうという「利用者のための裁判所」という考え方こそが、家庭裁判所の理念を端的に表すものだと思う。生身の人間の家庭内の紛争や少年の非行によってもたらされる家族内の葛藤や社会的不安を、家事・少年法制のもとで、その司法的機能と福祉的機能を駆使し、家庭裁判所の利用者である家事事件の当事者や少年に寄り添うことによって問題を将来に向けて解決することこそが、家庭裁判所に託された使命であると考える。
3 家庭裁判所のあゆみ
家事事件においては、その後の、社会経済情勢の急激な変化による核家族化の進展、世代間の断絶の傾向、価値観の多様化さらには家族間における権利意識の高揚といったことから、利用者の意識や家事紛争の態様には大きな変化がみられるようになった。また、少年事件においても少年の意識や非行の態様の変化がみられる一方で、被害者への配慮の要請の高まり、少年の成人年齢の引き下げといった新たな事態の変化に伴い、家事事件、少年事件それぞれについて、以下のような制度や運用の変遷があり、現在に至っている3)。
脚注
1. | ↑ | ネット上に掲載されている家庭裁判所のリーフレット「家庭裁判所のあらまし」【PDF】参照。(最終閲覧日2024年11月8日)。「家庭に光を、少年に愛を」というのが、家庭裁判所創設当時の標語で、「家庭に平和を、少年に希望を」というのがその後に作られた標語である。これらの言葉はこうした家庭裁判所の理念・役割を象徴している。 |
2. | ↑ | 清水聡『三淵嘉子と家庭裁判所』(日本評論社、2023年)127頁。ドラマ「虎に翼」の劇中で登場したポスターのデザインは、史実の昭和24年4月の家庭裁判所創設記念週間のために作られたものを忠実に再現している。 |
3. | ↑ | 75年にわたる家庭裁判所の歩みを振り返ると、多くの制度・運用の変遷がみられ、昨今の法改正における家庭裁判所の役割拡大の傾向もみられるが、本稿では、筆者が、その中で利用者のための裁判所としての観点から、主要なものを抽出したものである。 |