『数学力で国力が決まる』(著:藤原洋)
はしがき
インターネットの登場から四半世紀過ぎて、社会の変化が加速している。この目覚ましい社会の変化は、産業のデジタル化の進展によるところが大きい。具体的には、AI(人工知能)の利用が急速に進み半分の職業が消えてなくなるとか、AIにおける国際競争が激化し、日本はアメリカや中国から大きく出遅れて日本の未来は暗いとか、科学技術の発展に悲観論も出て日に日に騒がしくなっている。
このような状況の中で、本書で主張したいことは次の3点である。第1に、この変化の本質を理解し未来への先導者となるためには、「数学」および「数理科学」に強くなるか、あるいは、その本質を理解することである。第2に、多くの人が受験勉強以来「数学」から遠ざかっているが、社会の現場では「数理科学」の重要性が益々高まっているということである。第3に、インターネット、AI、ビッグデータの本質は、基本的にはそんなに難しくない「数理科学」であるということである。
今日の「第4次産業革命」やアルビン・トフラーの「第三の波」(情報化社会)と「数理科学」との関係についても触れるが、「数学」にとっては、伊藤俊太郎の「比較文明」における、人類がホモサピエンスという種に収束してから約20万年が過ぎた以降の5段階革命論が重要である。なぜなら「人類革命」「農業革命」「都市革命」「精神革命」「科学革命」という5つの革命が、何万年という時の流れの中で起こり、その革命の節目で最も役立つ生活の知恵として、また、古代文明において農業生産と国家の財政基盤を支える知恵として「数学」の起源があるからだ。歴史的に観て、栄えた国家の基本は「数学力」にであった。中世は、アラビア数字に代表されるアラビア社会が、ヨーロッパを圧倒していた時代だった。近代ヨーロッパで起こった「数学革命」から「科学革命」によってヨーロッパの隆盛が始まった。また、「科学革命」の中で起こったコンピュータの発明は、「数学」から「数理科学」への発展を加速させた歴史的な出来事である。
本書で述べるこの新たな「数学観」と「数理科学観」は、数学のユーザー視点の立場に立脚している。本書は、企業経営者、政府の政策決定者、教育者、数学・数理科学を学ぶ大学生・大学院生、数学・数理科学を社会に役立てたいと思う社会人の方々に広く読んで頂きたい。そこで、数学は、なぜ、いつ、どこで、何のために、生まれたのか? そして数学はどこへ行こうとしているのか? について著すこととした。第1章では、「ユーザーから見た数学とは?」と題し、古代文明から現代における数学の役割、「科学革命」の本質としての「数学革命」、産業革命における数学の役割、現代における20世紀と21世紀における数学の方向性について述べる。第2章では、「藤原洋数理科学賞を創設した理由」と題し、数学者に贈られる国内外の賞について概観した後、「藤原洋数理科学賞」の設立の背景とその想いについて述べる。第3章では、「数理科学が拓くニッポンの未来」と題し、「数学」から生まれた「コンピュータ」の概要とその歴史、「コンピュータ」による「数学」から「数理科学」への発展、その潮流の中での受賞業績に見る「藤原洋数理科学賞」創設の意義、および「数理科学」が牽引する新産業革命について述べる。
本書は、藤原洋数理科学賞授賞式、シンポジウムが、年々盛り上がっていく中で、 数学ファンの人気雑誌『数学セミナー』で著名な(株)日本評論社の編集者大賀雅美氏との会話の中で構想が固まった。というのは、改めて、過去7回の数理科学賞受賞者の数学者の皆さんの業績について振り返る中で、社会に大きな貢献をされてきたことが確認できたからである。具体的には、量子力学や相対性理論に関する基礎物理学、粘性流体力学、医学、脳科学、材料科学、生命科学、数理ファイナンス等広範な分野に及んでいる。構想が生まれて約1年を経過した。本書を著すに至っては、記述の正確性を期すために、数学者の立場から原稿内容をチェックし重要な示唆を頂いた藤原洋数理科学賞審査委員長の桂利行氏(東京大学名誉教授、法政大学教授)と、粗原稿段階から懇切丁寧に編集作業を行って頂いた大賀雅美氏に最大の敬意と感謝の意を表させて頂きたい。
2018年7月
著者識
目次
はじめに
1 ユーザーから見た数学とは?——産業の視点からの数学観
1.1 古代・中世数学と封建社会の形成
1.2 中世ヨーロッパ・ルネサンスからデカルトの時代と「数学」
1.3 「科学革命」をもたらした「数学」
1.4 オイラーによる「近代数学」の創始と「産業革命」の幕開け
1.5 20世紀における数学の発展
1.6 21世紀数学は、どこへ向うのか?
2 藤原洋数理科学賞を創設した理由——数学への個人的な想い
2.1 数学者に贈られる海外の賞
2.2 数学者に贈られる日本の賞
2.3 藤原洋数理科学賞の設立と数学への個人的な想い
3 数理科学が拓くニッポンの未来
3.1 「数学」から生まれた「コンピュータ」
3.2 「コンピュータ」による「数学」から「数理科学」への発展
3.3 受賞業績に見る「藤原洋数理科学賞」創設の意義
3.4 「数理科学」が牽引する新産業革命
附録 第2章で紹介した各賞の受賞者一覧
おわりに
書誌情報など
- 藤原洋 著
- 紙の書籍
- 定価:税込1944円(本体価格1800円)
- 発刊年月:2018年9月
- ISBN:978-4-535-78830-5
- 判型:四六判
- ページ数:240ページ
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